地域の自然、風土が見えてくる 日本のすし『伝え継ぐ 日本の家庭料理』より – 伝え継ぐ日本の家庭料理

地域の自然、風土が見えてくる 日本のすし
『伝え継ぐ 日本の家庭料理』より

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現在、猛烈編集中の書籍や雑誌、映像作品から、担当者がとっておきのニュースを紹介します。今回は、おいしいおすしの話。

柿の葉の表を上にして、そこに塩サバをのせたにぎりずしをおく。くるくるっと包んだら、それを手渡す。受け取ったすしは木の型箱に端から詰めていく。片手は箱から放さず、中のすしを押さえたまま。手を放すとせっかく包んだ柿の葉が広がってしまう。箱にすきまなく詰めて重しをし、一晩おけば柿の葉ずしのできあがり。

つくってくれたのは、奈良県下市町の柿農家・中森芳子さんとお嫁さんの亜由美さん。亜由美さんがすしを包み、芳子さんが箱に詰める。包む人と詰める人、柿の葉ずしは2人以上いないとつくれない。長年つくり続けているので、2人の息もぴったりだ。

下市町のある吉野川筋は柿の産地で、昔から夏祭りには柿の葉ずしがつくられてきた。抗菌作用のある柿の葉に包んでしっかり押すことで雑菌の繁殖を防ぎ、つくってから数日間は味わえる。昔ながらの、知恵が詰まった一品だ。

食材の違いから見える地域の自然や風土

本誌『現代農業』12月号と一緒に書店に並び始めたのが、40ページの主張でも紹介している『伝え継ぐ 日本の家庭料理』の中の1冊『すし』の巻だ。この本で紹介するのは、外食のすしではなく、家庭でつくられてきたすしで柿の葉ずしも掲載している。柿の葉ずしの材料はすし飯と塩サバのみで、じつにシンプル。駅弁でも販売され、外食のイメージがあるが、もともとは家庭料理。本では細かくレシピを紹介しているので、実際に家庭でもつくれる。

海のない奈良県は、サバは塩漬けにされて南紀熊野から運ばれ、吉野に入った頃、塩がほどよく回ってなれた味になり、それをすしにした。『すし』の巻には和歌山県、石川県、鳥取県の柿の葉ずしも登場する。和歌山県は具に池エビ甘辛煮を、鳥取県では塩マスを使う。鳥取は柿の葉で包まずにのせるだけ。同じ名前でも、地域ごとに違いがある。

すし飯や魚を漬けるのに使う酢を、地元でとれるカンキツの搾り汁でつくるすしもある。徳島県のぼうぜの姿ずしや高知県の山菜ずしではユズを、和歌山県のさいらずしではダイダイを、宮崎県の魚ずしはヘベズを酢の代わりに使っている。

それぞれのレシピを並べて見てみると、カンキツの種類、葉っぱの使い方、のせる具、味や形の違いから、植生などの地域固有の自然、風土まで読みとれる。

聞き書きで集めた日本各地のすしのレシピ

この本に掲載されている料理は、地域に残されている料理を聞き書きで調査し、その中から

(1)およそ昭和35年から45年までに地域に定着していた家庭料理

(2)地域の人々が次の世代以降もつくってほしい、食べてほしいと願っている料理

を基準に選んだ。『すし』には80品を掲載。上の写真は、その一部で、「ちらしずし・ばらずし」「巻きずし・いなりずし」「にぎりずし」「葉のすし」「押しずし・箱ずし」「姿ずし」に分類し、すべてにレシピがつく。

すしに関する本はたくさんあるが、日本全国でつくられている郷土のすしのレシピをこれだけ集め、一冊にまとめた本は見当たらない。レシピ本としてはもちろんだが、そのすしの生まれた土地柄、歴史などの記述もあるので、日本の食文化を知る本、旅先で出会う料理のガイド本としても楽しめそうだ。

『現代農業』2017年12月号「農文協編集局NEWS 24」