お彼岸のおはぎ、菜っ葉の漬物、正月の煮しめ…昔は当たり前につくられていた季節ごと、地域ごとの料理が伝わりにくくなり、“ふるさとの味”もいまや買って食べるものになりつつあります。
その味を家庭でつくれるレシピとして改めて伝えていくのが、このシリーズのねらいです。
海が近いか山が近いか。寒いか暖かいか。米がよくとれるか、主食が麦か雑穀か……。風土の多様性を反映し、個性的な食文化がはぐくまれ、それぞれの土地では、身の回りで手に入る限られた食材をいかに工夫しておいしく食べつなぐか、その知恵が磨かれてきました。
この企画では、そうした知恵とともに地域に伝わってきた料理、また戦後の貧しさも飽食の時代も経てこれから100年先もつくってもらいたい、食べてもらいたいと願う料理を、日本全国を調査して掘り起こし、再現できるレシピにしました。
レシピは単に材料とつくり方だけではなく、その土地ならではの工夫や思い出が詰まっています。実際につくることで、読者の皆さんの家庭の味になり、そこで新たな工夫や思い出が生まれれば幸いです。
企画・編集/(一社)日本調理科学会 発行/(一社)農山漁村文化協会 B5変型判、並製、オールカラー128ページ 各巻収録レシピ数・約80品 各本体1600円+税
第2回配本 2月5日発売
2017年11月から、別冊うかたまとして刊行開始。以降、2021年8月まで毎年2、5、8、11月の年4回発行予定
日本調理科学会に所属する研究者が現地の方から聞き書きをし、実際につくれるかどうか検証したうえで、レシピ化しています。料理の撮影はできるだけ現地で。つくれるレシピだから、次世代に伝えられるのです。
材料、つくり方だけではなく、料理のいわれ、料理がつくられている地域の特徴、聞き書きしたお年寄りたちの話なども掲載。各地域の気候風土もわかり、読み物としての面白さもあります。
例えば同じばらずしでも、エビや白身魚など魚介が豊富か、干し椎茸や豆など乾物が中心か、具や味つけの違いなどもテーマ別構成なので1冊の中で比較できます。
2017年11月4日発売
著者:日本調理科学会 企画・編集
定価:1,728円 (税込)発行日:2017/11
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:B5変 128ページ
お米をたっぷり使うすしは、昔からハレの日のごちそうです。その形、具、すし飯の味は風土で異なります。具に個性が表われるのり巻き、フナやモロコなどの川魚のすし、酢じめの魚や山菜をのせた押しずし、一尾丸ごとから焼き鯖、そぼろまで多彩な鯖ずしなど、さまざまなすしのレシピが掲載されます。
(写真撮影 五十嵐公、高木あつ子、戸倉江里、長野陽一)
凡例
一般社団法人 日本調理科学会では、2000年度以来、「調理文化の地域性と調理科学」をテーマにした特別研究に取り組んできました。2012年度からは「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」の全国的な調査研究をしています。この研究では地域に残されている特徴ある家庭料理を、聞き書き調査により地域の暮らしの背景とともに記録しています。
こうした研究の蓄積を活かし、「伝え継ぐ 日本の家庭料理」の刊行を企図しました。全国に著作委員会を設置し、都道府県ごとに40品の次世代に伝え継ぎたい家庭料理を選びました。その基準は次の2点です。
①およそ昭和35 年から45 年までに地域に定着していた家庭料理
② 地域の人々が次の世代以降もつくってほしい、食べてほしいと願っている料理
そうして全国から約1900 品の料理が集まりました。それを、「すし」「野菜のおかず」「行事食」といった16 のテーマに分類して刊行するのが本シリーズです。日本の食文化の多様性を一覧でき、かつ、実際につくることができるレシピにして記録していきます。ただし、紙幅の関係で掲載しきれない料理もあるため、別途データベースの形ですべての料理の情報をさまざまな角度から検索し、家庭や職場、研究等の場面で利用できるようにする予定です。
日本全国47 都道府県、それぞれの地域に伝わる家庭料理の味を、つくり方とともに聞き書きした内容も記録することは、地域の味を共有し、次世代に伝え継いでいくことにつながる大切な作業と思っています。読者の皆さんが各地域ごとの歴史や生活習慣にも思いをはせ、それらと密接に関わっている食文化の形成に対する共通認識のようなものが生まれることも期待してやみません。
日本調理科学会は2017 年に創立50 周年を迎えました。本シリーズを創立50 周年記念事業の一つとして刊行することが日本の食文化の伝承の一助になれば、調査に関わった著作委員はもちろんのこと、学会として望外の喜びとするところです。
2017 年9 月1 日一般社団法人 日本調理科学会 会長 香西みどり